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 製品を製造し販売していたところ、特許権者から特許権を侵害しているので製造販売を中止するようにとの警告を受けたというような事案が時々あります。権利者は、権利侵害があったと判断すると、通常、その権利行使前に侵害者と目される者に対し警告を発してきます。しかし、この警告は権利者の主観的判断に基づく場合が多く、ときに誤用又は濫用されることも少なくありません。
 したがって、警告を受けた場合、その正当性を調査検討後、しかるべき措置をとります。以下にその対策例(特許の場合)を説明します。

1.特許権存在の確認
  特許登録原簿により、特許権が有効に存在するか、正当な権利者からの警告であるかを確認します。


2.特許発明の技術的範囲の検討
  特許公報を入手し、特許請求の範囲の記載を中心に、特許発明の技術的範囲がどこまで及ぶかを検討します。

  特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められていますが(特許法第70条)、特許請求の範囲を正確に読むためには、出願時の技術水準を把握し、出願前の公知文献などを調査することが必要です。

  なお、特許発明の技術的範囲については、特許庁に判定を求めることができます(特許法第71条)。この判定においては、判定の対象が特許発明の技術的範囲に属するか否か等の公的見解を6月程度で示します。この判定は、法的拘束力を有しませんが、権利付与官庁の公式見解であるため権威ある判断の1つとされています。また、弁理士に鑑定を依頼することもできます。

  このような検討を踏まえ、自己の実施技術が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断します。


3.特許発明の技術的範囲に属すると判断した場合
 I 直ちに実施行為を中止し、故意責任を免れるようにします。

 II しかる後、実施許諾或いは権利譲渡を受け、正当に実施できるように交渉します。

 III また、調査の結果、特許権に無効理由を発見したときは、特許無効審判を請求します(特許法第123条)。無効の審決が確定すると、特許権ははじめからなかったものとみなされるので、警告自体その根拠を失うこととなります。

 IV その他として、先使用等による実施権があるか、特許権の効力の及ばない範囲の実施に相当するか、などを調査します。


4.特許発明の技術的範囲に属さないと判断した場合
 I 侵害事実がない旨を回答するとともに、将来の訴訟に備えて鑑定書、正当理由資料等の証拠の準備をしておきます。

 II 相手側からの仮処分の申請があった場合には、裁判所に上申書を提出して、こちらの意見主張の機会を与えてほしい旨の申し出をします。

 III 差止請求権、損害賠償請求権の不存在確認の訴訟を起こすことも検討します。

 IV 権利濫用、不正競争防止法違反等も適宜検討し、主張の根拠等を整理しておくことも考えられます。

 V 裁判外での解決として日本知的財産仲裁センター(外部サイト)へ仲裁・調停を依頼することも検討します。