知財戦略アドバイザーのコラム

 ここでは、当舘の知財戦略アドバイザーが、日々の相談業務の中で感じたことや考えていることから、営業秘密を管理・活用するうえで皆様のお役に立つようなちょっとした豆知識等を紹介していきます。

※本コラムの内容は執筆者個人の意見を表すものであり、当舘の見解を示すものではありません。

※仕様上、文字をかな表記にしている箇所がございますのでご了承ください。


はじめに/小原アドバイザー

フーテン?のアドバイザー
 工業所有権情報・研修館(INPIT)に営業秘密・知財戦略相談窓口(通称:”営業秘密110番”)が、サービスを開始してから、おかげさまで2月で二周年を迎えます。私たちINPIT知的財産戦略アドバイザーは、2015年2月のサービス開始以来、3名体制で全国各地の様々な団体が主催する知財セミナーの講師、電話などによる個別相談対応、および企業様をご訪問しての営業秘密管理体制構築のお手伝いなどを主な業務としています。

 スーツケースを引っ張り九州の小さな連絡船で移動中のスナップを知人に送ったところ「お前の仕事は、車寅次郎みたいだな」と言われました。たしかに、各地の集会で口上を述べ、中小企業のオヤジさんたちの悩みを聞くのが私たちの仕事の中心ですから、寅さんとの共通点があるかもしれません。

 たまに「小原先生」などと、声をかけられ戸惑うときがあります。寅さんが、旅先で、教養ある知識人と勘違いされ「車先生」などと呼ばれるシーンが、映画にもありました。各地で様々な人たちと触れ合い、新しい発見、新たに学ぶことが少なくありません。そのなかで、気づかされたこと、教えられたことを、何回かに渡ってご紹介したいと思います。
中小企業にとって「知的財産」とは
 私たちが扱っている「営業秘密」は、知的財産の一つです。
営業秘密の説明をはじめようとすると、「そもそもオレたちは知財がよく分かんないだから、営業秘密なんて興味もないし、もし取り組むとしても先の先」というような反応を示される中小企業の幹部が少なくありません。
また、知的財産をひととおり学ばれていても、間違った理解をされている方が結構おられます。

 以下が、よく耳にする「誤解」(の一部)です。
・素ばらしい自分の発明が特許登録された。なにもしなくても他者からライセンス希望が殺到し、大金が転がり込むはずだ。
・一度特許化できれば絶対である。
・展示会出品後でも権利化できる。
・製造・計測技術も、すべて特許で守るべきだ。
・プログラムは、特許権利化できない。
・口頭の秘密保持義務でも安心だ。
・契約を締結すれば、技術流出を防止できる。
・秘密保持契約を締結すれば、相手にすべて打ち明けても安心だ。
・買い手の仕様による特許侵害は免責される。
・従業員の発明は、当然会社のものだ。

 これらの「誤解」は、イコール「事業リスク」と考えても良いでしょう。
契約についての思い違いが、多いのも現実です。

とくに、「技術が命」のメーカーでは
■(特許、意匠、商標など知財に関する)権利
■(他者との)契約
■(営業秘密として守るべき)技術ノウハウ
の三本柱で、経営を考えていかねばなりません。

 事業で重責を担う経営幹部のみなさまには、まずこのことに気づいて欲しいと思います。

アドバイザーの嗜み/小原アドバイザー

キホンは「下から目線」

 私は約二年半前、家電メーカーのサラリーマンから現職に転じました。

 そのとき、永年薫陶を受けた会社の大先輩から「新天地ではクチが裂けても『ウチでは…だった』と前職と比較したり、聞かれもしないのに『◯◯電気におりました』などと決して語ってはいけない。それが大人の転職者の嗜みだぞ」と忠告されました。

 また、関西淡路大震災後の中小企業復興事業に携わった学生時代の別の先輩からは「人間には『他人の自慢話を聞かされるのは大嫌いだけれど、己の自慢をするのは大好き』という習性がある。会社の相談を受ける仕事は『下から目線』で経営者から本音を引き出すコトに尽きる。アドバイザーが初対面の相手に、真っ先に自分の過去(その手の話は、とかく盛ってしまいがち)を得意気に語るのはタブーだよ」とも言われました。

 さらに、INPITに来てから企業支援業務の先輩から、過去の実務経験に基づいたアドバイスをするときに「その情報は、いちばん新しくてもお前がアドバイザーに転じた2~3年前の『古いもの』であることを忘れず、つねに最新情報にアップデートする努力を怠ってはいけない」と助言されました。

 中小企業の経営者には即断即決タイプが多く、最初の2~3分の第一印象で、こちらの「人となり」を値踏みされてしまうコトが多い様に感じます。

 「前職で私は…」とやってしまいそうな自分を抑えながら、相談企業の実情をポイントを逃さず正確に引き出すために、常にアンテナを拡げ、自己研鑽し、過去の経験を土台にした「最新の自分」で語れるよう、先輩氏の教えを肝に銘じ、日々活動しています。

「秘密を守る」とは/小原アドバイザー

愛社精神の落とし穴

 日本の企業では、新入社員から経営トップまで「愛社精神」が旺盛です。

<営業マンは>
・展示会での説明/営業プレゼン/取引先への売り込み
<技術者は>
・展示会での専門的な質問への積極的対応/営業に同行した技術プレゼン/仕入れ先指導・外注指導
<経営トップは>
・トップセールス/表敬訪問時の土産話/社外への苦労話・自慢話披露
<工場スタッフは>
・取引先の監査・立ち入り/工場見学者の受け入れ

など、日常的にさまざまな他者(社)との接触の機会があります。
そういった場面で、自社の売り込みや、技術アピールに熱心なあまり、前のめりになって「必要以上に」説明してしまう傾向があります。
しかも、従業員それぞれが、その場の自己判断で「秘密保持契約を交わさず」に、だいじな企業情報を開示してしまうようなことが起こりがちです。秘密情報は一度流出してしまうと、取り戻すことは、まず不可能です。

 最近、自社ホームページ上で動画を用いて技術力をアピールしようとされている企業様が多いように思います。その動画を拝見すると、ほとんどの場合「出し過ぎ」の傾向があります。中には、背景にノウハウの塊である虎の子の内製化装置や冶工具が写っているような 「頭隠して尻隠さず」 のケースもありました。

 企業人として「会社を思う気持ち」は、とても尊いものです。愛社精しんが日本の産業を支えてきたことも事実です。
しかし、上に挙げたさまざまな例は、「情報という無形資産に関して脇が甘い」という日本人の特質もさることながら、「目先のことばかりを意識するあまり、(営業・技術情報が流出している意識をまったく持たずに、長い目でみると)会社に重大な損害を与えているという認識の欠如」から起きるものです。

 どの会社にも、そして新入社員から社長・会長に至るどの階層の従業員にも内在するこれらの悪弊を払拭するためにも、「営業秘密管理体制の構築」が必要なのです。

講師の心得/小原アドバイザー

伝わる講演をめざして 「つかみ」と「時間管理」

 私たちアドバイザーの重要な業務の一つに、全国各地での講演があります。企業の社内研修からINPIT主催セミナーまで、参加者は数人~数百人と規模も様々です。
 現在、毎夕(事務方を含めた)窓口メンバー全員が集まって、侃侃諤諤の議論をしながら、新年度用テキストの改訂作業を進めています。場数を踏んでは来たものの、どんな講演でも毎回緊張の連続です。
 私はお話をする際に、以下のことを心がけています。

<その1> 「出だし」が勝負
必ず冒頭に、開催地、参加企業などに相応しい「つかみの話題」を用意します。

 「どんな奴が、どんな話をするんだろう」と、会場に来られた皆さんの目と耳が私の一挙手一投足に集中する時ですから、開始早々「私は、前職で重要な知財ミッションを幅広く担当して来ました」などと大風呂敷を広げたりしたら即アウト、むしろ失敗談などの方が、参加者の心をグッと惹きつけられるように感じます。

 とは言っても「スベって空振り」も少なからずあり、エスプリの効いたストライクゾーンの題材を求め、様々な資料を渉猟しています。
<その2> 時間厳守
 どんなに良い話ができても、与えられた時間内に話を収められなければ、講師失格です。
 とくに主催者(企画側スタッフ)は、終了時間をひじょうに気にされます。

 自らに「1分オーバーで20点減点」を課しています。ですから、大甘の自己評価で「だいたい80点の出来だったな」と感じたときでも、4分超過したら結果は0点です。

 緊張が緩むと、時間が延びがちになります。あらかじめ章ごとにラップタイムを設定しておいて、時計を横目で見ながら「尺に合わせる」よう話をしています。
<その3> できるだけ平易に
 ともするとスペシャリストを気取って「専門用語で煙にまく」ような愚を犯しがちです。

 私たちの講演は、初学者をターゲットにしていますし、総務部門など非知財職の参加者も必ずおられます。

 「〇〇を担保する」「権利化/秘匿化の判断には、まず発明の顕現性を考慮すべき」「従業員の予見可能性を…」「図利(とり)加害目的で…」「善意無重過失で取得した場合…」等々、聞いただけでは頭に漢字と意味が浮かばない業界用語や役所言葉を連発し、聴講者を「置いてけぼり」にするなど、不親切の極みでしょう。話しぶりまでが独善的になってしまいそうです。

 口頭の説明では「専門(業界)用語は極力避け、可能な限りやさしく」を心がけています。
<その4>「伝わったか」の確認

<その4>「伝わったか」の確認
 テキストや話し方で、どんなに「伝える」努力や工夫をしても、結果、それが聞き手に伝わっていなければ意味がありません。講演・研修は、たいてい壇上から語りかけますから「上から目線」「一方的」になりがちなシチュエーションでもあり、尚更です。毎回、講演後にアンケート記入等で会場に残っておられる受講者を捕まえて

  • 講義で分かりにくかった項目
  • テキストの要改善箇所

などについて具体的に指摘してもらい、その内容を次回に反映させるようにしています。

 趣味で、テケテケと下手なエレキギターを弾いています。
 バンド活動では、演奏の巧拙とは別次元で「こいつ練習して来なかったな」は、他のメンバーにスグに見破られます。「1日練習しなければ自分に分かる。2日練習しなければ批評家に分かる。3日練習しなければ聴衆に分かる。」
 教育者、著述家でもあるフランスの高名なピアニストの言葉です。胸を張って「どんな聞き手にも、じゅうぶん納得してもらえる内容だった」というレベルに達していると言い切れる自信は、まだありません。「まあ、この程度で良いか」という妥協、手前味噌の評価がマンネリ化を招きそうです。

 昨日より今日、今日より明日と一つずつでも改良を加えながら、より「伝わる講演」にすべく、日々工夫を重ねています。

営業秘密管理「最初の一歩」/小原アドバイザー   

難しく考えずに

 私たちアドバイザーの、もっとも本来的な活動に、企業様訪問支援があります。

 たいていの場合、初回の訪問で経営幹部に「事業活動において、営業秘密管理がとても大事ですよ」という説明(説得)をします。そして、「じゃぁ、やってみようか」ということになり、営業秘密管理体制構築の実務がスタートします。書類・図面や電子データの「マル秘表示」をすでに実施しているような企業は素地があるので、その体制をメンテナンスし、拡充して行けば良いのですが、なにもやってない会社の「最初の一歩」は、「自社の強みの源泉となっている企業情報の抽出(棚卸し)」です。

 この「出だしの作業」が、スイスイ進む企業、考え込んで難航してしまう企業、まさに両極端です。

後者の多くは、「部門間で秘密ランクに齟齬(不整合)が生じないようにするには?」「社外秘と部外秘の線引きはどこに設定すべきか?」など、分類について「難しく考え過ぎてしまっている」場合が多いように思います。

ランク分けで悩んでおられる場合には、

「まず、『営業秘密』『一般情報』『他社からもらった情報』の大きな三分類でスタートしてみましょう」

なにが営業秘密にあたるのか、見当がつかない場合には、

「100円ショップでマル秘スタンプを何個か買って来て、まずは、とにかく秘密にしたい社内文書・図面に、ポンポン押してみてください」

と、お話ししています。

 そうお伝えすると、随分と気持ちが楽になるのか、膠着状態が解消され、各社それぞれにユニークな工夫を盛り込みながら作業が前進する場合がほとんどです。高度な技術ノウハウや、超重要な営業データについては「守らねば」 という強い意識が自然に働きます。

 ですから、秘密情報の抽出作業においては、「自社内では、全員が当たり前・ふつうだと思っているけれど、実は他社から見ると喉から手が出るほど欲しい情報」を見出すコトがとても大事です。その様な情報は、あらゆる局面で、あらゆる立場の社員が、無意識のうちに簡単に社外に流出させてしまうリスクが大きいからです。「最初の一歩」の実務を通じて、会社の強みを再認識できたり、権利で守るべき大事な技術が見つかったりする副次効果が得られることも少なくありません。

メーカーであっても、サービス業であっても、営業秘密となるべき情報を持たない会社はありません。難しく考えずに、まず「だいじな情報の棚卸し」から始め、どうすれば良いか?迷われたら "営業秘密110番" に、ご相談ください。

同じ目線で/古田アドバイザー   

営業秘密・知財戦略相談窓口の活動で感じたところ

 

 工業所有権情報・研修館(INPIT)の営業秘密・知財戦略相談窓口(通称:営業秘密110番)の知的財産戦略アドバイザー3名体制のうちの一人です。

 私は約二年半前に、中小機械メーカーから現職に移りました。
移った理由ですか? 
募集要項に「この窓口のサービスが、中小企業を対象に・・・」とありましたので、いままで長年自分も中小企業に身をおき、関係した中小の協力会社様にたいへんお世話になりましたことから、中小企業の皆様に、少しでも何かお手伝い(恩返し)が出来るのではないかとの一念で応募しました。

 私が当窓口の企業訪問支援を続ける中で、心がけていることが有ります。
それは訪問する企業様と同じ目線に立つことです。
けれども、訪問する企業様の特に技術面での同じ目線(理解)までに時間を要する場合があります。
その場合、教えて頂きながらの対応をさせて頂いております。
これからも同じような場合には、よろしくお願いいたします。

 企業様に訪問して、社長様に「御社の営業秘密とは」と尋ねますと、「昔からのこと(技術)を利用してやっているだけなので、ありません」と回答されることがあります。
本当に「営業秘密」はないのでしょうか? 
営業秘密とは、不正競争防止法第2条第6項の条文のとおり、「~秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって~」(一部抜粋)とあります。
例えば、通常商売を続けている限り、顧客先や仕入れ先の情報などは大事な営業秘密に成り得ます(これが盗まれたりしたら、一大事です)。
さらに、先ほどの「昔からのこと(技術)を利用しているだけ」についても、知らぬ間に技術の改良や改善をしていることがあります。
このような改善や改良を権利化して、または営業秘密として守っていくことは当然のことです。

 皆さんも今一度、自社の状況を見渡し見直し、「営業秘密」に気付いてください。

秘密管理導入支援の中での気付き/古田アドバイザー   

企業を訪問してみて

 私たちINPIT知的財産戦略アドバイザーの最大のミッションは、知財スタッフが十分でない企業の営業秘密に関するご支援です。 支援をする中で、企業の取り組みにいくつかの傾向があることに気付きましたので、それをお伝えします。

 多くの企業で、営業秘密管理の第一歩として自社情報の棚卸しをお願いしています。 棚卸しが完了した後であれば、一般情報と営業秘密を合理的に分類することは割とスムーズに進むのではないでしょうか。


 けれども、次のステップとして、分類された情報をその重要度に応じてレベル分けをしようとしますと意外に滞る場合があります。

 原因は各部門毎に重要度の捉え方が異なるためで、部門間でのバランスが取れなくなってしまう場合が多くみられます。その場合には「絶対に教えたくないもの/重要だけど秘密保持契約書を交わした後に社外に出して良いもの」の視点からレベル分けを行ってみてください。
 そうしますと、案外イメージが湧いて先に進むことができます。 けれども、レベル分けが上手く進まない企業には、レベル分けを度外視して「営業秘密として取り扱うもの」のみにしています。

 このようにすることで営業秘密をどう取扱うかが分かりやすくなります。

 もう一つ、営業秘密管理を進めるにあたり見落とされがちな情報があります。
 取引先など、外部から預かった情報です。
 万が一、その預かった情報の管理が不十分で自社から漏えいしてしまうと、その会社の社会的信用が失墜してしまいます。そして、自社の情報と他社から預かった情報の管理を疎かにしてゴチャ混ぜにしてしまうと、例えば、その情報を使用して成果物を産出した際に、どちらの情報に基づいて産出されたか判断がしにくい状況となり、成果の持ち分で問題に発展する場合があります。

 したがいまして、自社の情報と他社から預かった情報をシッカリ別管理しておく必要がありますので、忘れないようにお願いします。 自社の実情に合った営業秘密管理の体制を整え、営業秘密の管理をシッカリしていきましょう。

どんな企業でも基本や課題は同じ/境野アドバイザー   

実情にあわせた営業秘密管理を
 

 私は、一昨年の初めに、総合電機メーカから転身しました。当初は様々な業種で営業秘密に関心のなかった企業への支援に戸惑いもありました。

 営業秘密とは何? 秘密の特定はどうするの? 社内ルールをどうやって策定したらいいの? などの質問に対し、自分では親切心やサービス面から好ましいと思い、杓子定規的に法律的な話、或いは様々な対応策やベストモードなどを話してしまうおそれがありました。それによって相談者側は拒否反応や消化不良を起こしてしまい、次のステップに行かないようなこともあったかと思うこともありました。

 そのような反省から、面談前や訪問の前には、できるだけ、その企業の実情や課題を理解し、それに合った課題解決・ソリューションを提供するように心掛けています。まずは相談企業の実情に即した優先順位等を示したりして、できるところから進めるように助言しています。

 私の前職での企業も今では管理がしっかりしていると思われていますが、考えてみれば、かつては営業秘密管理が不十分な状況であったと思っています。社員や取引先との数々のトラブルや課題を経験し、それらの原因を分析したり、究明したりして、反省・改善しルール等を積み上げてきたと思っています。例えば、社員等のミス(PC等の置き忘れ、USBメモリの紛失など)から共同開発先とのトラブル、サイバー攻撃、産業スパイ事件など様々です。
 それらへの対応毎にマニュアルを作り、規則を改定していたように思います。挙げ句の果て、マニュアル等が山のようになってしまうこともあります。それらを見易く表にしたり、フローチャートにしたりすることもありました。

 これらの前職でのトラブル等への対応などで、どのようなケースでどのような対応が可能かなどの検討を行ってきたことで、引き出しの量が増えてきたことが、多少なりとも今の窓口での相談対応に活きてきているような気がします。
 このような前職での経験と一昨年からの営業秘密相談窓口での種々の企業訪問・面談等での経験を活かし、それぞれの企業の事情に合わせて最初から負担の少ないやり方を提示・助言するように心掛けています。

 例えば、管理と言うと、それを守るためにどうしても業務効率が落ちる場合があるかと思っています。私もかつてはITやICT系のスピードの速い分野を担当していたこともあり、業務を優先する気持ちは良く分かります。そのような場合も業務に支障をきたさないようにルールを策定したり、やり方を工夫したりしました。そのようなやり方や考え方なども必要に応じ伝えたりすることで、それが共感を生む場合もあります。やはり企業毎の個々の事情をよく理解し、それに適したアドバイスが有効になると感じています。

 これからも企業の立場に立って支援をしたいと思っています。

事前のリサーチとヒアリングを大切にしています/境野アドバイザー   

企業に寄り添った支援を行うために
 

 今でも初めて訪問する企業に対しては、どんな企業なのか、どのような方が対応してくれるのかなど、緊張しながら対応しています。少しでも緊張を和らげるため、事前にできる限りの準備をするようにしています。たとえば、事前に訪問企業のホームページにより事業内容を把握したり、特許出願状況を調査したり、営業秘密管理の現状を把握するためのチェックシートを事前に送付し、その確認結果での課題把握などを行うようにしています。

  さらに訪問した際には、上記チェックシートなどの再確認と共に、競業企業との関係や業界でのポジショニングなども把握し、強みや課題を一緒に考えるようにしています。その上で、何を権利化し、何を秘匿化するか、秘匿化するもの(訪問企業が気付いている点や気付いていない点)の把握と現状の管理状況などにつき、事前リサーチに基づき、ヒアリングや質問を行い、どこに強みや秘密にすべきものがあるかを聞き出すようにしています。競業企業との関係やポジショニングなどを把握しておかないと特許を積極的に出すべきか、ノウハウ秘匿が大事なのかなど、知財戦略的な方針を誤る場合もあり、異なる方針を示してしまう場合があるからです。

 ときにはこちらから、専門家顔で強みや秘密を言い当てたくなる場合もありますが、あえて企業側から言ってもらうようにしています。こちらから指摘されるのを嫌がる場合や秘密を言いたくない場合もあるためです。この他にも、主体的に動いてもらうことで、会社内の情報資産を棚卸して自社の強みを認識したり、その強みの管理状況を把握したり、部署間の取扱いや社員間の意識の違いを認識したり、取引先との契約や情報の取扱いの状況を認識したりするなど、自ら社内の状況を再確認していただくことができるメリットもあります。

 ヒアリングでうまく強みや秘密にすべきものを引き出せたら(或いは推測できたら)、強みや秘密のレベルを見極めるよう助言しています。その上で、その強み等を基に知財戦略の方向性を共有できると、企業は動いてくれる場合が多いと感じています。特に、企業側がどこに強みや秘匿化すべきものがあるかを自ら気付いた場合には積極的に活動していただけています。

 そのためには、企業トップの認識とバックアップに基づき主体的に活動する担当者(兼務者でもよいが、好ましくは各部門の代表メンバによるグループ体制)がいることが大事と考えています。そしてそのようなメンバと意見交換し、一緒になって秘密にすべきものの抽出やルール作りなどの活動ができると知財戦略や秘密管理体制の構築が上手くいくと思っています。実際、そのようなメンバが中心になって規程類を整備し、それに基づき社内教育資料を作成したり、具体的な自社の過去の事例などを紹介したり、社内セミナー等による周知活動を行って企業全体の意識を高めた事案をいくつも目にしてきました。

経営者の熱意が重要です/小高アドバイザー   

営業秘密管理に取り組むにあたって
 

 工業所有権情報・研修館(INPIT)の営業秘密・知財戦略相談窓口(通称:営業秘密110番)の知的財産戦略アドバイザーとなって約半年が経ちました。まだまだ先輩アドバイザーに比べて数少ない経験ですが、中小企業さまを訪問させていただいて感じたことを述べさせていただきます。

  私ども営業秘密110番の業務は、企業の皆様からの権利化/秘匿化の戦略相談、営業秘密管理相談、情報セキュリティ対策、営業秘密の漏えいなどの被害相談、一般的な法律相談などです。このうち企業さまを訪問する際の業務の大半は営業秘密管理相談です。各都道府県の知財総合支援窓口担当の皆さまが、地元の企業さまを訪問支援し営業秘密管理について問い合わせていただいた結果だと思います。私が中小企業さまに営業秘密管理の相談として訪問するときに一番気になるのは、経営者さまが営業秘密管理に関してどのくらい熱意があるかです。

  と申しますのは、営業秘密をちゃんと管理するか否かは保険のようなもので、トラブルがあったときに役立つものです。また、秘密情報をちゃんと管理する、すなわち特許で事業を守るように重要な技術情報をしっかり管理することで、事業を守ることはもちろん新たな特許出願の可能性も確保できます。さらに、こうした管理活動を通じて、自社の技術開発、知財戦略、事業戦略を推進し、社員の意識を高め技術開発企業の地位を確固たるものにできるというメリットもあります。 しかしながらそのメリットは、ISO9000や14000のように第三者認証を取得して会社の広告や名刺で宣伝できるというものではなく、目に見えづらく評価がわかりにくいものです。実際の管理には、営業秘密の抽出や分類、体制の構築という手間がかかるという点では、ISO9000の認証などと同等です。

 したがって経営者さまの最後までやり遂げるという熱意が大事なのです。経営者の皆さまが強いリーダーシップのもとで営業秘密管理に向けた取り組みをフォローしていただきますと営業秘密管理へのスタートは切りやすいものになると確信しております。
経営者の皆さま、是非とも営業秘密の管理に強い熱意をお持ちになってください。そのうえで営業秘密管理体制の構築に向けては、私ども知財戦略アドバイザーと地元の知財総合支援窓口担当の皆さまが連携して支援していきます。

社内のルールブック(営業秘密管理規程)を作りましょう!/小原アドバイザー   

情報漏えいの残念なケース

 もし、会社の大事な情報を誰かに盗まれたとしたら、みなさんは、どうされますか?
・近所の交番に駆け込み、当直の巡査に通報する
・地元の警察署の防犯係の刑事さんに連絡する
・どうしたら良いか見当もつかないので、以前ご近所とのトラブルで依頼した弁護士に相談する
などでしょうか?

 不幸にも、企業情報流出事故(事件)が起きた場合には、(交番や地域の警察署ではなく)営業秘密保護対策官や専門知識を有する警察官が配置されている都道府県警察本部の生活環境課、あるいは知的財産問題に詳しい弁護士に相談してください。

 弁護士相談や(全国の警察本部を管轄する)警察庁との連携がある私たちの “営業秘密110番” には、
「退職者が、我が社の重要な『営業秘密?』を持ち出し、それを使って商売をしているようだ、売上減の実害も被っているし、どうしても犯人を許せないので告訴もしたい。具体的にどうアクションすれば良いか?」
というような相談が、ときどき飛び込んできます。

 しかし、じっくり落ち着いて詳細に事情を伺うと、盗まれた企業情報が、そもそも「営業秘密には該当しない」ことが7〜8割で、意気込んで問い合わせをしたものの、虚しく切歯扼腕するほかない、とても残念なケースが少なくありません。

会社の重要な情報を法律で守るには

 管理が不徹底な会社の情報が盗まれた場合には、単なる(一般情報の)窃盗事件の扱いとなり、差止(侵害行為をやめさせること)もできませんし、犯人の量刑もさほど重くありません。

 罰金額で比較すると、不正競争防止法の営業秘密侵害罪が「3,000万円以下」なのに対し、窃盗罪は「50万円以下」で、実に二桁もの差があるのです。

 会社の大事な情報を、民事措置の「差止請求」が可能で、さらに懲役を含む重い刑事罰も規定されている「不正競争防止法の営業秘密」として守るには、情報が秘密として管理されている(「秘密管理性」を満たす)必要があります。

 秘密管理性とは「従業員が対象の情報に接したときに、その情報を『会社が秘密として管理していること』を、従業員に客観的にわかるようにしておく」ことです。

 例えば、社長さんと専務さんだけが「とても大事な我が社の極秘ノウハウだ」と思っている情報を退職者に盗まれたときに、「その情報は、実は我が社のスゴ〜く大事な虎の子技術なのだ、盗んだお前を営業秘密侵害罪で警察に突き出してやるぞ!!」というような「後出し」の措置はできません。

 被疑者であるその退職者が、在職していたとき(=盗む前)に「秘密と認識できるようにしておく必要があります。

 一般的に行われているのは、重要書類に「マル秘」スタンプを押したり、サーバー内に保存されている発売前の新商品情報を、限られた関係者しか見ることができぬようにID・パスワードでアクセス制限をすることなどです。

規程(ルールブック)や、情報のリスト(台帳)を作りましょう

 これらのマーキング等(=秘密の明示)を行うことは、秘密を認識させるために必須ですが、加えて、不正競争防止法の秘密管理性要件を満足する体制を維持管理するための社内ルールブック(営業秘密管理規程)を制定しておくことを強くお薦めします。

 検討段階で、従業員の意見も広く取り入れながら「管理規程」を作り、朝礼・社内全体会議等でその内容(各条項の趣旨等)の周知・理解を徹底しながら、規程に則った運用をすることで、営業秘密管理が、より実効的な活動になります。

 書類への「マル秘」マーキングや、電子化データのアクセス制限の対象である「秘密として守るべき自社情報」のリスト化(台帳化)も、併せて行いましょう。

「何が会社の秘密か」を明確に文書化(台帳化)しておくことは、実務においてはモチロン、秘密管理性の観点からも重要です。

 規程や台帳は、不幸にも会社情報の流出事故が起こり、裁判や警察沙汰になった場合、「あなたの会社が、大事な情報を不正競争防止法で規定されている営業秘密としてシッカリ管理していたこと」を証明する有力かつ説得力ある証拠にもなるのです。

 情報は(たとえ有力な取引先に対しても)「見せない」「教えない」「渡さない」が原則です。

 性善説や、根拠なき楽観論で「まあ、大丈夫だろう」と高を括っていて何の手も打たずに、(他社には決して知られたくない)あなたの会社の重要な情報が、従業員や取引先、工場見学などによって容易に外部に「ダダ漏れ」になってはいないでしょうか?

 少しでも不安に思われたら、
規程や台帳を整備し、大事な企業情報を「営業秘密」として全社を挙げてシッカリと守っていきましょう。

私たちの窓口サービスをご活用ください

 各都道府県の知財総合支援窓口(ナビダイアル0570-08210)および、INPIT営業秘密110番では、営業秘密を含む知的財産に詳しいスタッフが、(推奨「ひな形」のご提供も含めた)営業秘密管理規程整備(完成まで)のフォローをいたします。

 費用は一切かからない公的なサービスです。

 他の会社規則等と比較して、営業秘密管理規程の作成は、さほど難しくありませんし、私たちは懇切丁寧な親身の指導を心がけておりますので、事前知識がまったくない場合でも、心配ご無用です。

 みなさまからの、ご連絡をお待ちしています。

裁判例から学ぶこと/小原アドバイザー

企業支援の業務に就いて

私は永年、サラリーマンとして、し烈な企業間競争の中で「自社の収益に貢献する」ことを第一義に、精励恪勤、遮二無二働いてきました。

その世界から、INPIT営業秘密110番のアドバイザーに転じ、この秋で丸4年になります。

その間、人・金・モノがじゅうぶんとはいえない環境にあって、一人何役もこなすエネルギッシュで人情味あふれる社長のもと、仕事に誇りを持ち、日々たゆまぬ努力を続けている多くの中小企業の姿を目の当たりにしてきました。

優れた技術や製造ノウハウ、キラリと光る製品を有し、まさに日本経済の基盤を支えている中小企業を、微力ながら知財面からご支援するのが、私たちの仕事です。

「ささやかであっても、何か社会に貢献している」というような、前職とはまったく異次元の張り合いを感じながら、全国各地の企業訪問を続けています。

裁判例は生きた教材

退職した元従業員が会社の大事な情報を盗むケースが多いことを、みなさんも良くご存知だと思います。

企業情報の流出事件が、法廷での争い(裁判)にまで至ることがあります。
そのような事件の「裁判例」は、ネットでも公開されていて、私たちにとって、この上ない生きた教材です。

5人のアドバイザーが順番に、各自が興味を持って選んだ題材を解説する「裁判例勉強会」を月イチのペース続けています。

指南役は、私たちの窓口相談スタッフでもある元高裁判事の古城(こじょう)春実弁護士です。

不得意分野へのチャレンジ

アドバイザーは、メーカーでの永年の知財キャリアはあるものの、全員「非」法学部出身ゆえ、悲しいかな「リーガルマインド」を、まるで持ち合わせていません。

それでも、読み付けない判決文に挑みます。

しかし、裁判官が書いた、100ページにも及ばんとする難解極まりない判決文(岩波国語辞典の編者岩渕悦太郎氏は、その著書で「我が国屈指の秀才が書く、一般人には最も読み辛い文章の代表例」と紹介)のジャングルに迷い込み、その中をコンパスも持たずに、当て所なくさまよい歩くような状況に陥ってしまうことが少なくありません。

幾度も読み返し予習に励むも、消化不良のままタイムアウト。
無情にも勉強会当日がやってきます。

冒頭に、事件の概要を説明。
すかさず、先生から「ホワイトボードに、登場人物の相関図を分かりやすく書いてみて」との言葉が飛んで来ます。

当番が、スラスラと明快に解説を進められることは、滅多にありません。

初学者は、原告と被告のバトル(言い争い)の部分に引きずりこまれ、そこにフォーカスを当ててしまいがちです。

先生からは、裁判例を読み解く際は、生々しい争点に目を奪われるのではなく、まず請求原因(原告が法律のどの規定(条文)を根拠にどの様な要求をしているか)に着目し、事件全体の骨格を見定めた上で、原告・被告それぞれの主張、裁判所の判断を確認して行くステップが重要だと教わっています。

裁判例を企業支援のツールに

回を重ね、様々な裁判例に触れて行くうちに、次第にそれぞれの趣旨が読み取れるようになってきた気がします。

未だ、判決文は手強い存在ですが、ネットのダイジェストや雑誌解説記事などではなかなかイメージできない、事件現場の臨場感をも得られる大きなメリットもあります。

例えば「中小企業では企業情報の管理レベルがこの程度であっても営業秘密と認められることがあるんだな」とか、「競業避止(きょうぎょうひし)義務について裁判所は、かなり厳格なジャッジをするんだな」とか、「裁判所は、民事の名誉回復請求権を滅多に認めないんだな」などが、それぞれの事案のリアルなイメージを伴って理解できます。

苦労してチャレンジし、高名な法律家の指導を受けて読み込んだいくつもの裁判例は、企業への、実務に沿った、より具体的なアドバイスに活用できる、独学では決して得ることのできない、私たちの貴重なデータベースです。

「引き出し」を満たしておくために

この仕事をしていて、
「自分では、分かったつもり」と「それを、他者に正しく伝わるように平易に説明できること」には大きな隔たりがあるのを、日々思い知らされます。

まだ道半ばです、
これからも、ひるまずに難解な判決文への挑戦を続け、「事例の引き出し」をさらに充実させ、それらを中小企業の実務に役立ててもらえるよう、努力をいとわず研さんを積んでいきたいと思っています。